マグネシウム欠乏(低マグネシウム血症)

低マグネシウム血症の症状

  • 低Mg血症の症状は非特異的である。食欲不振、筋力低下、テタニーなど。従って積極的に疑わないと見逃しやすい。
  • 入院患者(特に重症患者)でのMg欠乏の頻度は少なくないのでルーチンでのMg測定をおこなうことが望ましい。
  • 難治性不整脈、低Ca血症、低K血症、利尿薬、アルコール多飲、慢性下痢、低栄養などではMg欠乏がおきている可能性がある。
  • 血清Mg濃度が正常でもMg欠乏はありうる

低マグネシウム血症の原因

  • 消化管からの喪失:低栄養、慢性アルコール中毒、慢性下痢、炎症性腸疾患、急性膵炎
  • 腎臓からの喪失:利尿薬(ループ、サイアザイド)、アミノグリコシド、シスプラチン、シクロスポリン、タクロリムス、アンホテリシンB、ペンタミジン、Bartter/Giteluman症候群、低P血症、高Ca血症、原発性副甲状腺機能亢進症、原発性アルドステロン症
  • その他:糖尿病(高血糖)、心筋梗塞、ジギタリス、カテコラミン、インスリン

  • Mg欠乏は消化管からの喪失。腎臓からの喪失が原因で主として起こり、その他細胞内外のシフトも原因となる。
  • 鑑別のためには24時間尿中Mg排泄を測定する。またはスポット尿でFEMgを測定する。血清Mg濃度に0.7をかける理由は糸球体でろ過されるMgは血清中Mgの70%であるからである。
  • 24時間排泄量<30mg、またはFEMg<4%ならば腎臓以外のMg喪失が原因、即ち消化管からの喪失かECFからICFへの流入である。
  • 消化管が原因の低Mg血症は低栄養、慢性アルコール中毒、慢性下痢、炎症性腸疾患が原因となる。
  • またECFからICFのシフトはHungry bone syndrome、甲状腺機能亢進症、リフィーディング(低栄養時の急な栄養補給)でおこる。
  • 腎臓からのMg喪失で最も頻度が高いものは利尿薬である。ループ利尿薬、サイアザイド利尿薬どちらでもおきる。
  • アミノグリコシド、シスプラチン、シクロスポリン、タクロリムス、アンホテリシンB、ペンタミジンなどの尿細管障害を起す薬剤によっても低Mg血症が起きる。シスプラチンの場合は投与中止後数年間持続することがある。ペンタミジンによる低Mg血症は投与2週間以内に発症する。シクロスポリンの場合は中止後速やかに正常化する。
  • 浸透圧利尿、体液量増加、糖尿病性ケトアシドーシス、アルコール中毒、低P血症、高Ca血症、原発性副甲状腺機能亢進症、原発性アルドステロン症なども原因となりうる。
  • まれな遺伝性の疾患で低Mg血症をきたすものは高Ca尿症と腎石灰化を伴う家族性低マグネシウム血症(familial hypomagnecemia with hypercalciuria and nephrocalcinosis:FHHNC)、常染色体優性低Ca血症(autosomal dominant hypocalcemia:ADH)、Bartter症候群、Gitelman症候群、弧発性優性低マグネシウム血症(isorated dominant hypomagnesemia:IDH)がある。
  • FHHNCは再発性尿路感染症、腎結石症、尿濃縮力障害、高Ca尿症、尿細管性アシドーシスが特徴で思春期までに1/3は末期腎不全に陥る。
  • ADHではカルシウム、マグネシウムの排泄が亢進し約50%で低Mg血症が起こる。
  • Bartter症候群は腎でのNa/Cl喪失、低K性代謝性アルカローシス、レニン/アルドステロン濃度の上昇、正常血圧が特徴であるが、低Mg血症合併することがある。
  • IDHは低Mg血症、高Mg尿症、低Ca尿症を認めるが、Na/Cl喪失はない。思春期に低Mg血症の症状をみとめるようになる。

マグネシウム欠乏症の診断

A)血清Mg<1.8gm/dl→FEMg測定

FEMg(%)={(尿[Mg]×血清[Cr])/(0.7×血清Mg×尿[Cr])}×100

FEMg<2%⇒消化管からの喪失

FEMg>2%⇒ 腎臓からの喪失

B)臨床状況からマグネシウム欠乏が疑われる場合は、Mg負荷試験を行う。

 

《マグネシウム負荷試験》

  • 硫酸マグネシウム40ml(40mEq)を生理食塩水250mlを1Hrで点滴静注
  • 点滴と同時に24時間蓄尿を行う
  • 24時間尿中Mg排泄が20mEq以下の時はMg欠乏と判断する。

マグネシウム欠乏の治療

>1.0mg/dlで無症候性:原疾患の治療and/or経口Mg製剤

<1.0mg/dlで無症候性:1mEq/kgを24時間で補充。その後3~5日0.5mEq/kg持続点滴する。

<1.0mg/dlで不整脈、全身痙攣を伴う:硫酸マグネシウム20mEqを5分で静注。次の6hrで40mEqを生理食塩水250~500mlに希釈し持続点滴。以後40mEq/12hrで約5日間投与する。

  • 治療の終了は血清Mgが正常値になるか、前述のMg負荷試験でMg欠乏がなくなるまで