低ナトリウム血症


脱水でも溢水でも低Na血症になる

  • 低Na血症の多くは低浸透圧性低Na血症である。これは低浸透圧(<280mOsm/l)にも関わらずADHの分泌が行われていることを意味する。
  • ADHは通常浸透圧刺激により分泌されるが、非浸透圧刺激により分泌の亢進が起こるため低Na血症が生じる。(参照:水バランスと浸透圧調節
  • 低Na血症は血管内(細胞外液)のNa量が血管内水分量(細胞外液量)に比して少ないことを意味する。
  • 細胞外液が不足している場合(脱水など)、細胞外液がほぼ正常な場合(SIADHなど)、細胞外液が過剰な場合(心不全など)、Naも水も正常だが、蛋白や脂質が多いために見かけ上の水分量が増えて見える場合(偽性低Na血症)がある。
  • 細胞外液の評価は、一つの指標で判断できない。問診、理学所見、検査所見を総動員して判断する。しかし±10%の範囲は過不足を判定できない。この範囲は細胞外液正常と考える。

低ナトリウム血症の診断

  • 血漿浸透圧と尿浸透圧を知る必要がある。血清Na値、血糖値、BUNから血漿浸透圧を推測し、尿比重から尿浸透圧を推測しながら浸透圧測定と同時に行う。
  • 院内で生じた場合は、浸透圧物質があることは少ないので、推測値をもとに解析する。
  • 血漿浸透圧正常の場合は偽性低Na血症。高値の場合は医原性であるので迷うことは少ない。
  • 浸透圧低下の場合は体液量(細胞外液量)を評価する。脱水の徴候があれば細胞外液量低下、浮腫があれば細胞外液量過剰、どちらもなければ細胞外液量正常と判断する。正常と判断する場合でも数%~10%は検査や理学所見ではわからないので、この範囲での脱水も溢水もありうる。
  • 細胞外液量低下の場合は、腎性と腎外性の喪失を区別するため尿中Na濃度(FENa)を測定する。
  • [Na]>20mEq/lまたはFENa>0.1%(腎機能正常の場合。末期腎不全の場合は>1%でも腎性の喪失が強く疑われる。利尿薬使用時はあてにならないのでFEUN>35%を用いる)
  • [Na]<20mEq/lまたはFENa<0.1%の場合は腎外性の喪失を考える。腎外性体液欠乏では平均で[Na]18mEq/l、SIADHでは75mEq/l 
  • 細胞外液量過剰の場合は循環血液量の過剰のあるなしで考える。
  • 一番鑑別に迷うのは細胞外液量正常の場合である。以下のように考える。
  • 甲状腺機能低下症、副腎不全を除外する。TSH、FT3、FT4、ACTH、コルチゾールを測定する。粘液水腫の有無はこれでわかる。しかし、副腎不全はACTH負荷試験を必要とする。
  • ホルモン異常が否定されればSIADH、reset osmostat、MRHEである。これらは検査上は区別が困難なので、治療の経過を踏まえながら最終診断する。

注)

骨髄腫などの高γグロブリン血症でおこる。

血糖<400mg/dlGlucose 100mg/dl上がるごとに1.6mEq/lのNa低下を認める。

   >400では2.4-2.8mEq/lずつ低下。

マンニトール、グリセオールなどの高浸透圧性の輸液は細胞内外の浸透圧差を生じ細胞外に水を移動させる

細胞外液量の評価法は別に項目を掲げる(輸液と細胞外液量の評価)

慢性腎不全におけるNa保持能の低下を反映する。進行した慢性腎不全、海綿腎、多発性嚢胞腎、鎮痛剤腎症、慢性腎盂腎炎、閉塞性腎症でおこりうる。

利尿薬はループ利尿薬よりサイアザイド系利尿薬で起りやすい。サイアザイド系利尿薬はADH分泌を刺激してSIADHの原因にもなりうる(細胞外液量正常の低Na血症)、高齢者の女性に多い

尿細管性アシドーシス、アルカローシスでみられる。

糖尿病性ケトアシドーシスではketon尿、アルコール性ケトアシドーシスではacetoacetate尿、飢餓ではβ-hidroxybutyrate尿を生じ強制的にNa排泄を引き起こす。

クモ膜下出血などで稀に低張性低Na血症、低尿酸血症、細胞外液量やや減少~正常のSIADHに似た病態を示すことがある。腎でのNa利尿が亢進しているので水制限をかけてはいけない。

嘔吐、下痢、胃液吸引、消化管ドレナージ

カリウム欠乏が低ナトリウム血症の原因となることは非常に重要である。細胞内の主要な浸透圧物質であるKの減少により浸透圧低下のため細胞内から細胞外液へ水が移動するため低Na血症がおこる。治療はK補充。

サードスペースとは細胞内でも細胞外でもない第3のスペースという意味であるが、現実的には細胞内、細胞外とも水、電解質の迅速なやり取りが乏しいスペースと解釈するのが妥当。イレウスでの腸管内用液、多量の胸腹水、出血、筋挫滅症候群、静脈閉塞などで生じる。

SIADH(ADH不適切分泌症候群)は低ナトリウム血症の原因で最も多い。診断は基本的には除外診断である。 

ADH分泌の浸透圧域値が正常より低い値でresetされている病態。SIADHの亜型でSIADHの20%を占めるとされる。血清Na120~130mEq/lに維持されるため症状がない限り治療を要しない。結核、頚椎損傷、低栄養が原因として多い。その他上記のSIADHの原因疾患によっても起こされる。

MRHE(mineralocirtuciud responsive hyponatremia of the elderly;高齢者鉱質コルチコイド反応性低ナトリウム血症)は加齢によるレニン・アルドステロン系の反応性の低下によってNa保持機能が十分働かなくなり代償的にADHが分泌される病態である。高齢者では非常に頻度が高く(高齢者SIADHの1/4)多くはSIADHと診断されている。やや脱水傾向にあるため水制限を行うと脱水が顕在化するため禁忌である。フロリネフ0.1~0.3mgを治療に用いる。高塩分食で治療してもよい。

粘液水腫(甲状腺機能低下症)では、GFRが減少するため、近位尿細管の再吸収増加、AVP分泌増加するため自由水排泄障害が生じ低Na血症となる。

まず、原因不明の低Na血症を見たときは一度はグルココルトコイド欠乏(=副腎不全)を疑う必要がある。特に高齢者では頻度が高い。糖質コルチコイドによるAVP分泌抑制作用が低下するため低Na血症を生じる。非ストレス時には正常でもストレス時に十分な分泌ができないことがある。副腎不全の症状検査所見は倦怠感、脱力感、体重減少、食欲低下、嘔気嘔吐、便秘、下痢、腹痛、発熱、低血圧、関節痛、めまい、筋痙攣、精神症状(記銘力障害、抑うつ、無表情、無気力)、色素沈着、“低Na血症(67%)”、“低血糖が遷延(18%)”“高K血症(55%)”、“CPK上昇(24%)”、など非特異的な症状のみなので積極的に疑わないと診断できない可能性がある。疑ったら迅速ACTH負荷試験を行う。

 

《迅速ACTH負荷試験》

①合成1-24ACTH250μgを静脈注射する。

②負荷前、および負荷後30分、60分後に血中コルチゾールを測定する。

③血中コルチゾール18μg/dl以上を正常反応とする。