livedoid vasculopathy(リベド血管症)

  • 血行障害によって引き起こされる再発性、難治性、有痛性皮膚潰瘍である。
  • 好発部位は下腿でしばしばリベド(網状皮斑)を伴う。
  • 病理組織学的に血管炎所見は認めない。
  • 夏に関節に反復する潰瘍の女性を報告したのが最初で”夏季潰瘍性網状皮斑”と呼ばれた。その後、livedo vasculitis,livedoid vasculitisとしてアメリカから報告されたが、これらの症例にも血管炎所見は認めていない。
  • 1998年にイタリタのPapiらがlivedo vasculopathyと命名し、その後livedoid vaculopathyと呼ばれるようになり定着した。
  • 日本皮膚科学会の”血管炎・血管障害診療ガイドライン 2016 年改訂版”にもlivedoid vasculopathyが採用されている(P381~384)。

livedoid vasculopathyの臨床症状

  • 下肢に再発性の網状皮斑と紫斑。
  • 慢性で、難治性の潰瘍を形成する。
  • 慢性に経過した後、白色の萎縮性瘢痕を生じるが、褐色~黒色の色素沈着になることがある。
  • 好発部位は足関節部、次いで足背。

診断

  • livedoid vasculopathyは臨床所見と皮膚病理からの診断名であり、検査所見は特に定められていない。プロテインS、プロテインC、第Ⅴ因子Leiden変異、抗リン脂質抗体症候群などを伴うlivedoid vasculopathyが報告されている。

【皮膚病理組織】

  • 真皮から皮下脂肪組織の血管壁の肥厚、フィブリン血栓で炎症細胞浸潤はないかごくわずか。血管周囲に赤血球の漏出を伴う。
  • 明らかな血管炎は認めないことが重要。
  • 蛍光抗体法ではフィブリンが陽性の場合がある。後期には免疫グロブリンや補体の沈着がみられる場合がある。

鑑別診断

血栓症、皮膚潰瘍を起こす疾患が鑑別になる。

 

結節性多発動脈炎 真皮と皮下組織の境界部にフィブリノイド変性を伴う血管炎を認める。
抗リン脂質抗体症候群

網状皮斑、皮膚潰瘍で血管炎を認めないのはlivedoid vasculopathyと共通した所見。

抗リン脂質抗体を認め、臨床的に皮膚症状のみで病理組織がlivedoid vasculopathyに合致する場合はlivedoid vasculopathyとして報告されている場合がある。

うっ滞性皮膚炎

長時間の静脈うっ滞後に生じ、色素沈着、硬結、時に潰瘍を伴う

プロテインC欠乏

プロテインS欠乏

静脈血栓症を生じる。

クリオグロブリン血症

クリオフィブリノーゲン血症

循環障害を生じ、紫斑、網状皮斑、水泡、潰瘍、壊死を生じる。

血管内に好酸性無構造物質がみられる。

Ⅰ型クリオグロブリン血症は血栓のみ。Ⅱ、Ⅲ型では血管炎を伴う。

ホモシスチン血症

加齢、男性、ビタミンB6/ビタミンB12/葉酸の不足、腎機能低下、喫煙、cystathione  β synthase(ホモシステイン代謝酵素)欠損、methylene tetrahydrofolate reductase(MTHFR)遺伝子多型(C677T)で高値になる。

動脈硬化や血栓形成を引き起こす。

factorⅤleiden遺伝子変異

プロトロンビン遺伝子変異

factor Ⅴ leiden遺伝子変異やプロトロンビン遺伝子変異(G20210A)は静脈血栓の原因になる。

欧米人のみに認めアジア人には認めない。(医学のあゆみ2016;257:759)

壊疽性膿皮症

膿疱、水疱から潰瘍を生じる。網状皮斑や紫斑は認めない。

潰瘍性大腸炎、クローン病、リウマチ、骨髄腫、白血病に伴うことがある。

感染性皮膚潰瘍

潰瘍に二次的に感染する場合もある。

膠原病

SLE、シェーグレン症候群、リウマチ性血管炎などで皮膚潰瘍を伴うことがある。

PAI-1プロモーター4G/4G genotype

plasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)は線溶系の主要な阻害因子である。

PAI-1遺伝子4G/4Gホモ接合体はPAI-1活性が高い。

日本人では約半数に認めるとするデータがある

PAIプロモーター4G/4Gホモ接合を認めたlivedoid vasculopathyの報告がある。Arch Dermatol.2006;142:1466)

薬剤性

ワルファリン誘発性皮膚壊死、ヒドロキシカルバミドは潰瘍を起こすことがある。

Livedoid vasculopathyの治療

  • 大規模比較試験はなく、治療は確立していない。
  • 抗血栓療法による血行改善が試みられる。
  • これまでに報告されている治療を一覧にする。
  • 禁煙は重要である。
  • 疼痛コントロール目的でNSAIDs、ガバペンチン、アミトリプチン、オピオイドが使用されることがある。
  • 腰部交感神経ブロック、硬膜外ブロックは血流改善と疼痛コントロール目的で行われることがある。
抗凝固薬

ワーファリン(Arch Dermatol,2006;142:75, J Am Acad Dermatol,2008; 58:512)

リバロキサバン(Br J Dermatol,2013;168:898)

低分子ヘパリン(Arch Dermatol. 2004;140:1011)

 抗血小板薬

アスピリン(Int J Dermatol1999;38:161,Int Wound J.2012;9:344)

ジピリダモール( Changgeng yi xue za zhi,1991;14:237)

血栓溶解薬 組織プラスミノーゲン活性化因子(Mayo Clin Proc.1992;67:923)
血管拡張薬 ニフェジピン(J Am Acad Dermatol. 1986 ;14:851)

その他

 

ニコチンパッチ(西日本皮膚科2006;68:491)

PUVA療法Int J Dermatol2001;40:153)

大量γグロブリン療法(J Am Acad Dermatol 2004;51:574)

ドキシサイクリン( J Clin Aesthet Dermatol, 2008; 1: 22)

蛋白同化ステロイド(ダナゾール)( Br J Dermatol, 1998; 139: 935)

高圧酸素療法(Br J Dermatol, 2006; 154: 251)

臨床経過と予後

再発性、難治性の臨床経過をたどることが多い。

生命予後はよいが、罹病期間が長く、歩行困難、疼痛もあるためQOLを損ないやすい。

潰瘍が残存する場合はデブリドマン、植皮術、局所皮弁術も考慮される。

創部の細菌感染治療は潰瘍改善には重要。