Castleman病

  • キャッスルマン病(Castleman病)は原因不明のリンパ増殖性疾患である。
  • 炎症性サイトカインであるIL-6が産生され、全身の炎症を引き起こす。
  • 1950年Castlemanらにより発表された。
  • その後、組織学的に硝子血管型(hyaline-vascular type:HV型)、形質細胞型(plasma cell type:PC型)、両者の混合型(mixed type)に分類されるようになった。
  • 病変が一つの領域に限局する場合は単中心性(unicentric castleman disease:UCD)、複数の領域に広がる多中心性(multicentric castleman disease:MCD)と分類される。
  • UCDは硝子血管型、MCDは形質細胞型または混合型。
  • MCDの一部はHHV-8感染関与し、HIV感染患者にみられる。本邦ではまれ。
  • UCD、HIVに合併するHHV-8関連MCD、HHV-8陰性のMCDは別病態。
  • 正確な疫学調査はないが、年間発症頻度は100万人あたり1~5人と推測されている。
  • 厚生労働省研究班「キャッスルマン病の疫学診療実態調査と患者支援体制の構築に関する調査研究班」より2017年2月に発表された。(臨床血液2017;58:97-107)

病態生理

  • IL-6の過剰産生が病態形成の大部分を占めている。
  • IL-6はB細胞や形質細胞を活性化させ、形質細胞への分化誘導させる強力な因子である。
  • IL-6は血管内皮増殖因子の発現により、リンパ節の血管新生が促進される。
  • 樹状細胞の発育を阻害しTh2優位として様々な自己免疫現象を引き起こす。
  • IL-6は血小板増加、発熱、CRP上昇、小球性貧血を引き起こす。
  • HIV関連のMCDはウイルスゲノム由来のviral IL-6(vIL-6)が宿主細胞のIL-6産生を刺激し、協調的に作用して病態を形成している。

キャッスルマン病の診断

  • リンパ節の病理組織診断が必須である。(一部リンパ節以外の組織の生検で診断される)
  • 前述の厚生労働省調査研究班からは以下の《診断基準案》、《組織像》、《診断に際しての参考事項》が提案されている。(臨床血液2017;58:97-107)
《キャッスルマン病の診断基準案》(臨床血液2017;58:97-107)
 AおよびBを満たすものをキャッスルマン病と診断する。

A 以下の2項目を満たす。

 

1、腫大した(直径1cm以上の)リンパ節を認める。

2、リンパ節または臓器の病理組織所見が、下記のいずれかのキャッスルマン病の組織像に合致する。

 1)硝子血管型

 2)形質細胞型

 3)少子血管型と形質細胞型の混合型

 

B リンパ節腫大の原因として、以下の疾患が除外できる。

 

1、悪性腫瘍

免疫芽球性T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、濾胞樹状細胞肉腫、腎癌、悪性中皮腫、肺癌、子宮癌など

2、感染症

:非結核性抗酸菌症、猫ひっかき病、リケッチア感染症、トキソプラズマ感染症、真菌性リンパ節炎、伝染性単核球症、慢性活動性EBウイルス感染症、急性HIV感染症など

3、自己免疫疾患

:SLE、関節リウマチ、シェーグレン症候群など

4、その他の類似した症候を呈する疾患

:IgG4関連疾患、組織球性壊死性リンパ節炎、サルコイドーシス、特発性門脈圧亢進症など


《キャッスルマン病の組織像》(臨床血液2017;58:97-107)
 1)硝子血管型(Hyaline vascular type)
  • リンパ節の基本構造が保たれる。
  • リンパ濾胞は拡大するが、胚中心は萎縮性で、相対的にマントル層が肥厚する。
  • 胚中心内のリンパ球は減少し、壁の硝子化を伴った小血管の増生と軽度の異型を示す濾胞樹状細胞の集団によって置き換えられる。
  • 診断に必須の所見ではないが、マントル層のリンパ球が同心円状に配列するように見えることがある
  • 硝子化した小血管が放射状に胚中心に侵入する像をしばしば認める。

2)形質細胞型

(Plasma cell type)

  • リンパ節の基本構造は保たれる。
  • リンパ濾胞、胚中心は正~過形成を示す。
  • 胚中心に小血管の増生を認めることがあるが、angiosclerosisを認めることは通常ない。
  • 濾胞間領域に小血管の増生、線維化を認めることがあるが、硝子化した血管を認めることは通常ない。
  • 濾胞間領域に著明な形質細胞のびまん性の浸潤を認める。ときにRussell小体の出現を伴う。
  • マントル層~濾胞間領域に核小体の明瞭な大型偏在核を示す形質芽球を認めることがある。

3)混合型

(Mixed type)

  • 胚中心のangiosclerosisと形質細胞の著明な浸潤を伴うような硝子血管型と形質細胞型の特徴を兼ね備えた組織像を示す。

補足)

HHV-8関連MCD

  • 形質細胞型ないしは混合細胞型の組織像を示す。
  • しばしば胚中心の萎縮とangiosclerosisが目立つ。
  • マントル層~濾胞間領域にHHV-8陽性の形質芽球を多数認める。
  • 形質芽球はIgMλを発現し、軽鎖制限がみられるが、IgH再構成検査でみると多クローン性である。
  • 欧米では形質芽球亜型(plasmablastic variant)として扱われる。

《診断に際しての参考事項》

  1. 自覚症状は、無症状のものから重篤なものまで様々である。頻度の高い症状として、微熱~中等度の発熱、全身倦怠感、易疲労感、体重減少、盗汗、リンパ節腫脹がある。一部の症例では皮診(扁平ないし軽度隆起した褐色から暗赤色の皮診、類天疱瘡、キサントーマ、アトピー性皮膚炎、黄色腫、血管腫)、腹満、浮腫、息切れ、呼吸困難感、出血傾向がみられる。時に脳梗塞などの血栓症や末梢神経障害を認める。
  2. 画像検査では、リンパ節腫脹の他に、肝脾腫や胸水、腹水、間質性の肺陰影を認めることがある。
  3. 血液検査では、多くの場合炎症反応(CRP)が陽性で、血中のIL-6濃度の上昇がみられる。また、小球性貧血、血小板増多、血清LDH低値、低アルブミン血症、高ALP血症、多クローン性高ガンマグロブリン血症、高IgE血症、高VEGF血症を呈することが多い。また、しばしば抗核抗体など自己抗体が陽性になる。
  4. 一部の症例では腎障害(蛋白尿、血清クレアチニン値上昇)、間質性の肺病変、肺高血圧症、拡張型心筋症、自己免疫性の血小板減少症、自己免疫性溶血性貧血、内分泌異常(甲状腺機能低下症)、アミロイドーシスを合併する。
  5. 高ガンマグロブリン血症に伴って血清IgG4高値や組織中IgG4陽性細胞増多を示すことがある。その際に、発熱、CRP高値、小球性貧血、血小板増多などの高IL-6血症に伴う反応が認められる場合は、IgG4関連疾患よりはキャッスルマン病の可能性を強く考える。
  6. HHV-8関連のキャッスルマン病は、特徴的なリンパ節組織像と、リンパ節組織中あるいは血中におけるHHV-8の存在を証明することによって診断する。多くはHIV感染者に見られ、カポジ肉腫や悪性リンパ腫を合併することも多い。
  7. POEMS症候群は、単クローン性のガンマグロブリン血症を伴う進行性のポリニューロパシーで、多発性骨髄腫類縁のリンパ系腫瘍と考えられるが、その一部がキャッスルマン病と重なる病態を呈する。治療法や予後は異なるが、本診断基準では除外すべき疾患には含めない。注)POEMS症候群(=クロウ・深瀬症候群):多発性神経炎(Polyneuropathy)、臓器腫大(Organomegaly)、内分泌障害(Endocrinopathy)、M蛋白血症(M-protein)、皮膚異常(Skin changes)
  8. TAFRO症候群は、血小板減少、全身性の浮腫、発熱、骨髄の線維化、肝脾腫を特徴とした臨床像から提唱された疾患概念。キャッスルマン病に合致するリンパ節病理組織像がみられることがあり、特発性多中心性キャッスルマン病との異同が議論されている。現時点では除外すべき疾患には含めない。注)TAFRO症候群: Thrombocytopenia(血小板減少症), Anasarca(全身浮腫、胸腹水),Fever(発熱、全身炎症), Reticulin fibrosis(骨髄の細網線維化、骨髄巨核球増多), Organomegaly(臓器腫大、肝脾腫、リンパ節腫大)

単中心性キャッスルマン病

  • リンパ節腫大以外の自覚症状に乏しく、偶発的に画像診断で見つかることが多い。
  • 部位は胸部、頸部、腹部、後腹膜の順で頻度が多い。
  • 外科的切除により治癒が期待でき、全摘出が可能か否かが予後に影響する。

多中心性キャッスルマン病の症状と診断

リンパ節の病理組織像は、多くの場合形質細胞型あるいは混合型を呈する。特発性MCDの診断には類似した臨床像と病理組織像を取りうる様々な疾患の除外が重要である。

 

《鑑別診断》

1、悪性リンパ腫

比較的緩徐に進行し、腹腔内/胸腔内などの深部リンパ節腫脹、腫瘤性病変形成という臨床像を共有するため、低悪性度B細胞性リンパ腫との鑑別を求められる。

 

濾胞性リンパ腫(FL)

  • angiosclerosisが生じない。腫瘍濾胞で増生し、酵素抗体上、Bcl2+であることから鑑別可能。

節性辺縁帯B細胞性リンパ腫(NMZL)

  • CDの中にはNMZLに類似した、lymphoid variantと呼ぶべき症例があり注意が必要。この場合monoclonalityの有無を鑑別する。

マントル細胞リンパ腫(MCL)

  • HV型CDで鑑別が問題になることがある。Cyclin D1発現の有無を検索する。

形質細胞腫

  • PC型CDは腫瘍性の性格はなく、monoclonalityが証明されれば形質細胞腫をはじめとする悪性リンパ腫と診断すべきであるが、CDに形質細胞腫を合併したとする報告は、線維化と血管増生が共存し腫瘍細胞の産生するIg軽鎖はλ鎖である。

血管免疫芽球T細胞リンパ腫

  • 全身リンパ節腫脹、多クローン性高ガンマグロブリン血症、自己抗体の出現はいずれもみられるため、T細胞のmnoclonalityの注意深い検索が必要。

2、膠原病

  • SLE、シェーグレン症候群、関節リウマチ、肝疾患などで生じるリンパ節の形質細胞増加症とCDは鑑別困難。臨床情報と併せて判断する。

3、IgG4関連疾患

  • 外分泌組織に線維化を伴う著明な形質細胞浸潤を示す。リンパ節腫脹を伴う症例では、組織像ではPC型CDとの鑑別が困難だが、CDではIL-6や炎症反応が著明に上昇するのに対して、IgG4関連疾患ではIL-6や炎症反応は正常~軽度上昇にとどまる。

《多中心性キャッスルマン病の臨床像》

(臨床血液2017;58:97-107)

 多くの症例でみられる症状
  • 発熱、全身倦怠感、易疲労感、体重減少、盗汗、リンパ節腫脹

時に合併する症状

  • 皮診(扁平ないし軽度隆起した褐色~暗赤色の皮疹、類天疱瘡、キサントーマ、血管腫)
  • 胸水、腹水、親の薄い、浮腫
  • 脳梗塞などの血管症、末梢神経障害
  • 間質性肺病変、肺高血圧症
  • AAアミロイドーシス
  • 腎障害(蛋白尿、血清Cr値上昇)
  • 拡張型心筋症
  • 自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性血小板減少症
  • 内分泌異常(甲状腺機能低下症など)

主な検査値異常

  • CRP上昇、赤沈亢進
  • 小球性貧血、血小板増多
  • 血清LDH低値、血清ALP高値、血清Alb低値
  • 多クローン性ガンマグロブリン血症、血清IgG高値、血清IgE高値
  • 抗核抗体、クームス試験陽性などの免疫検査異常
  • 血清IL-6高値、sIL-2R高値、血漿VEGF高値

MCDとIPL

  • 森らが提唱したIdiopathic plasmacytic lymphadenopathy with polyclonal hypergammaglobulinemia(IPL)は、多クローン性の高ガンマグロブリン血症とリンパ節内の形質細胞増生を特徴とする疾患概念である。(日網内系会誌1980;20 suppl:S85-94)
  • IPLは今日では特発性MCDに含まれるようになった。
  • HIV感染患者に生じるHHV-8関連MCDが少ない本邦では、MCDの多くは特発性MCDであり、特発性MCDとIPLはほぼ同等であるため、MCDのほとんどはIPLが占めることになる。
  • 本邦からのMCDの報告は多くがIPLの報告と考えられるが、適切な治療を行えば予後は比較的良好とされている。
  • 2008年に小島らは28例の特発性MCDをIPL型18例と非IPL型10例として報告しているが、この中で非IPLは形質細胞増生はわずかで、病理組織は硝子血管型または混合型、血清IgG上昇は軽度、胸水または腹水(60%)、血小板減少(40%)、自己免疫疾患合併(40%:ITP=2,ITP+systemic screlosis=1,SjS=1)をみた。そのため、非IPL型の一部は自己免疫疾患関連などの二次性MCD様病変と推察している。両群とも予後は比較的良好で5年生存率91%、10年生存率80%であった。(Int J Surg Pathol. 2008;16:391)

治療

UCD

  • 外科的切除を行えば95%は治癒する。衛星病変は腫大リンパ節の大部分を外科的に摘出すれば退縮する。
  • 外科的治療が困難な場合はネオアジュバント療法や塞栓術により外科的治療を可能にする努力が必要になる。
  • 局所放射線療法、抗IL-6抗体療法、lenalidomide,bortezomibなどの報告もある。

MCD

  • 全身性の炎症症状が軽度の場合は、低用量~中等量のプレドニゾロン(臓器症状あり~0.3㎎/㎏、臓器症状あり0.5~1mg/kg)で開始し、症状が改善したら漸減する。中止は困難な場合が多い。
  • 炎症が強い場合や腎、肺などに重篤な臓器症状を有する場合はIL-6レセプター抗体であるTocilizumab(TCZ)が用いられる。
  • TCZは第Ⅱ相試験で、35例の患者に対して2週間隔で8回投与され、CRP、フィブリノーゲン、ESR、貧血、低Alb血症の改善をみた。30例では長期投与が行われ、8回投与時に改善がみられた指標は改善が維持された。またリンパ節短径の平均値も12.4mm(投与前)から7.2mm(104週)と縮小した。(中外製薬website アクテムラ国内第Ⅱ相試験
  • 本邦の多施設共同研究でもPC型CD28例に対してTCZ2週間隔で60週間投与された。リンパ節短径は平均13.5mmから8.6mmに縮小。CRP、SAA、Hb、Alb、IgG/A/M、脂質、BMIも改善がみられ、15例でステロイドが減量または中止が可能であった。この中には2例のHHV-8陽性例がみられたが治療効果は陰性例と同様であった。(blood.2005;106:2627)
  • 抗IL-6抗体のsiltuximabもTCZに匹敵する効果をもちRCTで有効性が確認されている。(Lancet Oncol.2014;15:966)
  • ステロイド、抗IL-6治療に抵抗性の場合はHV型ならR-CHOP、PC型ならTD/VTD(V:Vortezomib,T:Thalidomide,D:dexamethasone)などが試みられる。Rituximab(RTX)はHV型には有効だが、PC型には効きにくい。IFNα、サリドマイド、ATRA、Vortezomib、Anakinraなどが有効であったとする症例報告もある。
  • HHV-8関連MCDは、多くがHIV感染者にみられる亜型で重症例が多く、カポジ肉腫や悪性リンパ腫の合併例することもある。予後は悪いとされていたが、AZT+Valancyclovir+RTX(Blood. 2011;117:6977)、あるいはRTX+liposomal doxorubicin+抗HIV薬(Blood 2014 124:3544)による良好な成績が報告されている。

POEMS症候群

  • POEMS症候群(Crow-深瀬症候群)は多発神経炎(polyneuropathy)、臓器腫大(Organomegaly)、内分泌異常(endocrinopathy)、M蛋白、皮膚症状(skin changes)を特徴とする症候群。
  • POEMS症候群の10~30%がMCD病変をもつ。
  • 自家末梢血幹細胞移植を用いた大量化学療法がおこなわれる。

TAFRO症候群

  • 血小板減少(thrombocytopenia)、胸腹水貯留(anasarca)、発熱(fever)、骨髄線維化(reticulin fibrosis)、肝脾腫(organomegaly)を伴い重篤な経過をたどる疾患でTAFRO症候群とよばれる。
  • 非IPL型の特発性MCDの亜型ともいわれるが、漿膜炎を主体とした独立した疾患であるとする考え方もある。