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コレステロール塞栓症は大動脈などの大血管壁にある粥腫が何らかの要因で破綻し、コレステロール結晶が血中に流出し末梢で塞栓をきたす疾患である。
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腎・四肢・消化管・中枢神経・網膜などの臓器に障害を引き起こす。
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動脈硬化性疾患を持つ高齢者で男性に多く発症する。
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原因はカテーテル検査、心血管手術(冠動脈バイパス術、動脈瘤手術)、抗凝固療法など医原性が多い。但し、抗凝固療法のみでリスクにならないかもしれない。
- 診断にはまず皮膚の観察が大切である。Blue toe(足趾の塞栓症による疼痛とチアノーゼ)、livedo reticularis(網状皮斑)が重要なサインである。(Lancet 2010;375:1650)
- 腎臓、消化器、中枢神経、網膜塞栓などを認めることがある(表)。
- 腎は血行力学的にコレステロール結晶が流れ込みやすい。そのため約50%の症例で腎障害が発生する。
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誘発となる医療行為、亜急性腎障害、皮膚病変が揃えば診断は比較的容易であるが、誘因の無い場合などは気づかれにくいため高齢男性の腎障害では常に念頭に置く必要がある。
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微小塞栓が起きた後、免疫反応による障害が生じるため1週間~数ヶ月で発症するが、数日以内に生じることもある。
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しばしば見られる検査異常は好酸球増多(60~80%)、炎症反応(CRP、赤沈)上昇である。尿所見は軽微なことが多いがネフローゼ症候群も報告されている(Am J Kidney Dis 1996;28:493)。
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腎徴候では腎機能障害が多い。蛋白尿も認めることがある。血清クレアチニン上昇83%、蛋白尿54%とした報告(Angiology 38:769-784,1987)がある。
- 皮膚、消化管、腎臓などの生検でCCEが証明されることが多い(写真)。
- 腎生検が行われても、腎の一部にしか針状結晶が存在しないため生検組織には得られないことも多いので結果の解釈には注意が必要である。
- ANCA関連血管炎、結節性多発動脈炎、亜急性細菌性心内膜炎、薬剤性間質性腎炎、造影剤腎症などが鑑別診断になる
≪写真 皮膚生検≫
血管内に針状のコレステリン結晶を認める
左:HE、右:EVG
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腎予後は悪く30~60%で血液透析となる。血液透析にならなくても腎障害が完全には回復しないことが多い。
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治療は特異的なものは無く、保護的治療と対症療法が主体となる。動脈カテーテル挿入などの血管内操作を避ける。抗凝固療法は発症のCCEのリスクとして証明されていないため、リスクベネフィットで決める。
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スタチン投与、ステロイド、プロスタグランディン製剤、LDLアフェレーシスなどの治療が有効であったと報告されているが、有効性の証明は不十分
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またスタチン系薬剤は大動脈の粥腫を安定化する作用があるといわれており、コレステロール塞栓症の腎死抑制効果があったとする研究もある(Am Soc Nephrol 2003;14:1584、Circulation 2007;116:298)
- 塞栓後の免疫反応抑制のためステロイドが用いられることがあるが、有用であったとする報告(Am J Kidney Dis
1999;33:840、Clin Nephrol
2006;66:232)と予後を悪化したとする報告があり、評価は一定していない。
- 2次予防の目的で動脈硬化性疾患の治療強化が行われている。アスピリン、血圧コントロール、禁煙、血糖コントロールの強化(糖尿病患者の場合)などである。