尿検査の見かたと考え方


尿検体の選択

  • 尿検査は腎臓に何らかの疾患や障害が疑われるときには必ず行うべき検査である。
  • 早朝第一尿は一日のうちで最も濃縮され、かつ酸性に傾いているので腎の濃縮力障害、酸性化障害、微量蛋白、糖を検出しやすい。そのため腎疾患のスクリーニングに優れている。
  • 随時尿は主に外来検査で用いられる。
  • 中間尿は尿培養や細胞診に適している。
  • 正常な尿は透明淡黄色である。
  • 多尿の場合はより明るい黄色になるし、夜間の水分制限の後で濃縮しているときは暗い色になる。
  • 尿色は薬剤や疾患の影響をうけて変化する。

《尿色が変化する場合》

黄色~琥珀色 ビリルビン、スルファサラジン、リボフラビン、nitrofrantoin、chloroquine
 白色  リン酸結晶、高度の膿尿、乳糜尿
青色~緑色

プロポフォール、緑膿菌、アミトリプチン、

ビリベルジン(ビリルビン尿を放置すると変化してビリベルジンになる)

茶褐色~黒色 メラニン(悪性黒色腫)、ホモゲンチジン酸(アルカプトン尿症)、レボドパ、メチルドパ
赤色~茶褐色

血尿、ヘム色素(ヘモグロビン尿、ミオグロビン尿)、フェノチアジン系薬剤、フェニトイン、ポルフィリン、

セフジニル(セフゾン®)、リファンピシン、チペピジンヒベンズ酸(アスベリン®)、チメピジウム(セスデン®)、

センナ、大黄、アロエ、メトロニダゾール

  • 尿が泡立つという主訴で受診する場合がある。直ぐに消える泡は正常尿でも認めるが、しばらく泡が消えない場合は尿蛋白による表面張力の増加のこともあるので調べる必要がある。

尿試験紙法

  • 尿試験紙法は迅速に尿異常を知ることが出来る検査である。
  • 比重、pH、蛋白、潜血、ブドウ糖、白血球エステラーゼ、亜硝酸塩、ウロビリノーゲン、ビリルビン、ケトン体を知ることが出来る。

①尿比重

  • 早朝尿の尿比重は腎濃縮能を見る場合に重要である。成人では1.025以上に濃縮できる。
  • 尿蛋白や尿糖は尿比重を増加させる。尿蛋白1g/dLで0.003、尿糖1g/dlで0.004増加する。
  • 尿浸透圧は2×(Na+K)+尿素窒素/2.8で求められるが、この計算式と実測値が大きく乖離する場合は、尿糖、造影剤、グリセオール、マンニトールなどの分子量が大きな物質の存在を意味する。
  • これらの物質は尿比重を大きく変えるが、浸透圧にはあまり影響を与えない。
  • 尿比重を大きく変える物質が存在しない場合、尿比重と浸透圧には以下の関係がある。

  《尿比重と浸透圧》

比重 尿浸透圧(mOsm/kgH2O)
1.005 150
1.010 300
1.020 650
1.030 1000
1.040 1350

②尿潜血

  • 潜血陽性は赤血球中のヘモグロビン、血管内溶血によるヘモグロビン、骨格筋によるミオグロビンを検出する。
  • 赤血球中のヘモグロビンをみるには尿沈渣で赤血球の有無を確認する。

③尿糖

  • ブドウ糖は通常血糖が180~200mg/dlを超えると出現してくる(もう少し低くても出現することもある)
  • 例外として正常血糖でも腎近位尿細管での再吸収障害があると出現することがあり腎性尿糖という。
  • 腎性尿糖は単独の再吸収障害として見られることもあるが、腎炎の炎症の強い場合や、甲状腺機能異常症、加えてFanconi症候群や多発性骨髄腫の一部として見られることも多い。

③尿白血球

  • 試験紙法での白血球検査は白血球に見られる酵素であるエステラーゼを間接的に検出している。
  • 試験紙法での検出感度は10~25個/μLである。尿沈渣検査法の有意の白血球尿である基準値(5/HPF以上)と概ね一致する。
  • 試験紙法の結果と沈渣白血球の結果が一致しないことがある。
  • 試験紙の劣化、高比重尿による試験紙への浸透低下、抗生物質や高濃度のブドウ糖/シュウ酸/蛋白などの共存物質の存在により試験紙では偽陰性になりうる。
  • 逆に低張尿、アルカリ尿などでは偽陽性になりやすい。
  • 沈渣白血球がみられるときほとんどは好中球であり尿路感染症が原因であることが多い。亜硝酸塩や細菌尿が見られるなら可能性がさらに高くなる。
  • 白血球エステラーゼ陽性だが細菌尿が見られない場合は間質性腎炎等の無薗性膿尿の精査をするべきである。
  • 好酸球がみられる場合は薬剤などによるアレルギー性急性間質性腎炎を強く示唆する。しかし好酸球がみられなくても薬剤性間質性腎炎は否定できない。

④亜硝酸塩

  • 亜硝酸塩は尿路感染症の目安になる。
  • 食事で摂取され尿中に排泄された硝酸塩が腸内細菌科の細菌により一部が亜硝酸塩に変化するため検出される。
  • 白血球エステラーゼ、亜硝酸塩両方陽性なら腸内細菌科の尿路感染症を強く示唆する。

⑤尿ウロビリノーゲン

  • 尿ウロビリノーゲンは肝疾患を反映する。
  • 肝臓で作成された直接ビリルビンは腸管内でウロビリノーゲンに変換されて大部分便中に排泄される。しかし一部は再吸収されて腸管循環に入る。腸管循環にもれたわずかなウロビリノーゲンは尿中に排泄されるので正常でも(±)となる。
  • 通常肝疾患ではウロビリノーゲン陽性となるが、閉塞性黄疸では腸管循環が遮断されるため尿中ウロビリノーゲンは陰性になる。

⑥尿ケトン体

  • ケトン体にはアセト酪酸、アセトン、βヒドロキシ酪酸がある。
  • 尿試験紙法で検出できるのはアセト酪酸、アセトンである。
  • したがって糖尿病性ケトアシドーシスではβヒドロキシ酪酸が主に作られるため試験紙法による評価では過小評価されがちであり重度の糖尿病性ケトアシドーシスでも尿ケトン陰性となることがある。

尿沈渣

①正常尿沈渣

  • 沈査沈査赤血球1~4/HPF(=high power field:400倍視野)
  • 白血球1~4/HPFが正常範囲である。
  • 上皮細胞や硝子円柱も10~20倍視野(=low power field:LPF)数個までは正常でも見られる。
  • 尿酸やシュウ酸カルシウム、リン酸カルシウムなどの少数の結晶を認めることもある。

②尿円柱

  • 円柱の主成分であるTamm-Horsfall mucoproteinはヘンレ係蹄上行脚の尿細管上皮で生成分泌される。そしてアルブミン濃度上昇、浸透圧上昇、pH低下など条件がそろえば重合ゲル化しやすくなる。
  • この基質に糸球体から漏出する蛋白が加わって尿細管内で凝固し円柱状になったものが尿円柱である。
  • よって、糸球体濾過量が落ちたり、激しい運動や、絶食・飲酒など脱水状態で尿量が減少するとみられることがある
  • TMPとアルブミンからなる硝子円柱以外は病的である。

③上皮細胞

  • 上皮細胞で診断的意義をもつのは尿細管上皮細胞のみである。
  • 顕微鏡で下部尿路の上皮細胞との区別が必ずしも容易でないため、上皮細胞円柱を認めるときのみ確実に尿細管由来であるといえる。
  • これは尿細管障害を示すものであるが、糸球体腎炎や血管炎でもみとめることがある。

尿異常の考え方

①尿沈渣で赤血球を認めるとき

  • 腎実質疾患を示唆するのは以下の所見である(ただしこれらがないからといって腎疾患の否定は出来ない)
  • 赤血球円柱が存在する
  • 蛋白尿が存在する
  • 赤血球の変形がみられる

②肉眼的血尿や血塊がみられるとき

  • 尿路系疾患を示すことが多い。
  • 一時的な血尿は尿管結石、運動、外傷、尿路感染などが原因となる。しかし原因不明の場合も多い。
  • 持続的な血尿の場合は腎疾患、尿管結石、50歳以上の場合は悪性腫瘍(膀胱癌、尿管癌、前立腺癌、腎癌、悪性リンパ腫、白血病)や前立腺肥大症などを鑑別診断する。
  • 肉眼的血尿(肉眼で尿色の変化がみられなおかつ尿沈渣で赤血球を認める)場合、出血量の推測を色で判断するのは困難である。尿1リットルに1ccの血液が加わるだけで尿色は褐色に変化するためである。
  • 肉眼的血尿が腎不全を伴う場合は急性尿細管壊死を考える。

③卵形脂肪体

  • 糸球体病変で蛋白尿を伴うとき尿細管細胞が脂肪変性を起こし脂肪滴が細胞内に認めることがある。
  • この細胞を卵形脂肪体よび糸球体疾患の有力な根拠になる。
  • 卵形脂肪体を見るときは遊離脂肪滴や脂肪円柱もしばしば認められる。

④硝子円柱以外の尿円柱

  • 円柱の存在は疾患の起源が尿管や膀胱ではなく腎臓であることを意味する。
  • 腎疾患で認められる円柱は赤血球円柱、白血球円柱、上皮細胞円柱、顆粒円柱、ろう様円柱、脂肪円柱などがある。
  • 赤血球円柱は糸球体腎炎、血管炎を強く示唆する。
  • 白血球円柱は急性腎盂腎炎や尿細管間質性腎炎で見られるが、時に血管炎、コレステロール塞栓症でも認めることがある。
  • 顆粒円柱は赤血球、白血球、尿細管などの細胞が変性した顆粒様の残骸を含む円柱である。種々の腎疾患で認められる。
  • 顆粒円柱がさらに変性するとろう様円柱になる。腎疾患が長期にわたると出現してくる。
  • 脂肪円柱は上述のように蛋白尿の多い糸球体疾患でみられる。

尿蛋白の評価

  • 蛋白尿を疑うときは24時間蓄尿か、随時尿でのグラムクレアチニン(gCr)あたりの蛋白尿を必ず測定する。
  • 随時尿では活動度により尿蛋白排泄量にばらつきが生じるため、蓄尿検査の方がより正確で望ましい。
  • 但し入院で行う蓄尿は活動度が外来時よりも低くなるため、尿蛋白も少なくなりやすいことには注意する。
  • 蓄尿の難しい外来では主にgCrあたりの蛋白尿を測定する。これは1gのクレアチニンが排泄されるのと同じ尿に排泄される尿蛋白量をあらわす。
  • クレアチニンの排泄量は筋肉量に比例し1日約1gであることから、gCrあたりの尿蛋白は1日の尿蛋白排泄量に相当する。
  • 高齢者や女性では1日クレアチニン排泄量は1g以下(しばしば0.5g以下)になるので尿蛋白を過大評価しがちになる。
  • しかし、同一人ならばCr排泄量は一定と考えられるので尿蛋白の経時的変化を見ることはできる。
  • gCrあたりの尿蛋白は、

尿蛋白(mg/dl)/尿クレアチニン濃度(mg/dl)

で計算する。

  • 例えば随時尿で蛋白濃度が200mg/dl、尿クレアチニン濃度が40mg/dlとすると、1日尿蛋白推定量は200/40=5g/gCrとなるので、1日約5gの蛋白尿が推測されることになる。
  • 蓄尿時には尿蛋白と同時に尿中クレアチニン排泄量も定量すると良い。
  • 数回繰り返せば1日のクレアチニン排泄量がわかるので、蓄尿が適切に行われているかの目安になるし、gCrあたりの蛋白尿を解釈するときの参考に出来る。

尿細管性蛋白(尿中NAGと尿中β2MG)

  • 尿蛋白の中でβ2MG(β2microglobulin)NAG(N-acetyl-β-D-glucosidase)は尿細管性蛋白尿と言われ腎尿細管間質障害で上昇するためよく測定される。
  • NAGは近位尿細管内に存在する酵素である。近位尿細管障害で逸脱により尿中に排泄される。正常で尿中排泄は5-15U/gCrである。
  • 末期腎不全(腎萎縮)で尿細管組織量が高度に減少した場合は間質障害があってもNAGは高値になりにくい。
  • β2MGは正常では血中で0.5~2.0μg/mlであり、糸球体で濾過された後尿細管でほぼ完全に再吸収され、尿中排泄量は200μg/gCr未満である。
  • 慢性炎症(感染症、関節リウマチ等)や悪性腫瘍では血中β2Mが上昇するので、尿細管での再吸収閾値(約4μg/ml)を超えた場合や尿細管障害により再吸収障害が生じたときに尿中β2Mが増える。
  • 尿中β2M上昇、尿中NAG上昇なら尿細管間質障害を意味する。また尿/血中β2M上昇、NAG正常ならβ2産生量増加による尿中排泄増加を意味する。