尿細管間質性腎障害

  • 糸球体には大きな変化が見られず、主に尿細管、間質に存在するものを尿細管・間質性腎症と呼ぶ。
  • 急性反応としては浮腫や細胞浸潤が起こり、慢性反応としては間質線維化、尿細管萎縮がみられる。これが混在する場合もある。
  • 原因となるのは感染症に伴うもの、薬剤、免疫疾患、閉塞性/逆流性腎症、腎乳頭壊死、重金属、電解質や代謝障害による尿細管障害、腫瘍性、糸球体および血管障害に伴うものがある。
  • 間質性腎障害では自覚症状もなく、蛋白尿、血尿は軽微か認めないことが多い。
  • 健診で行われる尿検査ではなかなか発見されず、かなり進行しないと血清Cr濃度の上昇も見られないことから見逃されていることも少なくない。
  • 無菌性白血球尿、尿中好酸球、濃縮力障害(特に早朝尿での比重が低い)、尿酸性化障害/尿細管性アシドーシス(尿pH上昇)、尿中β2MG、尿中NAG上昇は比較的簡単に出来る検査であり間質性腎障害を疑う指標となる。
  • 急性間質性障害の場合は、脱水エピソードや抗生物質、NSAIDsなどの薬剤服用歴、超音波検査での腎腫大に注目する。

感染性尿細管性間質性腎炎

急性腎盂腎炎

  • 腎盂腎炎はしばしば遭遇する感染症である。20代の女性や妊婦に多い。男性では前立腺肥大や神経因性膀胱などが原因になることが多く中高年以降に発症頻度が増える。
  • 感染経路は圧倒的に上行性感染が多いが、血行性やリンパ行性感染もある。
  • 急性腎盂腎炎では大腸菌、Klebsiella、Proteusが原因菌として多い。
  • 悪寒戦慄を伴う39~40℃以上の発熱、倦怠感、背部痛、腰痛、肋骨脊柱角部の叩打痛が主な症状である。膿尿と時に血尿が合併し、肉眼的にも混濁が見られる。
  • 尿沈渣でWBC 5個/1視野で病的である。蛋白尿は通常認めない。尿培養で105/ml以上の細菌が見られた場合に原因菌と判断する。カテーテルからの尿の場合は細菌量に関わらず原因菌と考える。
  • 超音波検査では異常なしの場合が多いが, 重症例では腎腫大, 実質の浮腫性変化を反映した低エコー域が認められることもある。
  • 造影CTでは腎の腫大に加え, 楔状の造影不良域として認められる。その他にはGerota's fasciaの肥厚, 腎周囲脂肪組織の濃度上昇がCT所見として認められる。
  • 病理では腎実質や表面に多数の小膿瘍がみられる。尿細管の破壊、好中球浸潤が見られる。
  • 抗菌薬治療への反応はよく、広域ペニシリン製剤、セフェム系製剤などがよく使われ速やかな臨床症状・尿所見の改善を見ることが多い。

慢性腎盂腎炎

  • 慢性腎盂腎炎ではEnterobacter、Psudomonas aeruginosaなどの弱毒性グラム陰性桿菌、表皮ブドウ球菌、Enterococcusなどが原因となる。
  • 臨床症状は無症状も稀でなく、全身倦怠感及び疲労、体重減少、食欲不振、頭痛、微熱などの漠然としたものが多い。
  • 尿所見では細菌尿は消失していることが多いが、近位尿細管障害を反映して低分子蛋白尿を認める。
  • 腎障害が進行すると尿濃縮力低下(夜間頻尿など)、糸球体機能低下、腎不全に至る。
  • 急性腎盂腎炎を繰り返しても、また細菌尿が持続しても慢性腎不全となるわけではなく、結石、水腎症、前立腺肥大、神経因性膀胱などの尿流異常や逆流などが大きく影響している。
  • 画像では腎萎縮、腎盂腎杯の変形拡張がみられる。腎の左右差が見られることもある。
  • 組織学的には間質の線維化、リンパ球/形質細胞の浸潤、尿細管萎縮/内腔拡大がみられる。糸球体にも影響が及び、ボウマン嚢の肥厚や線維化、部分硬化から全硬化(global sclerosis)に進展する。
  • 治療は長期間の抗菌薬療法であるが尿流障害を認める場合は是正が必要である。

間質性腎障害を起こす病原体

  • 連鎖球菌感染症では急性糸球体腎炎以外にもTINの報告もみられる(Int Urol Nephrol 1999;31:145)。低補体血症の合併はないとされている。
  • 黄疸出血性レプトスピラ病(Weil病)でTINにより急性腎不全が生じる。早期診断されれば抗生剤投与により予後良好とされる。
  • EBウイルス感染でもIgA腎症などの糸球体病変以外にもTINの報告がある。(Clin Nephrol 2002;58:151
  • 麻疹ウイルス感染でもTINの合併を見ることがある。皮疹を認めない例も報告されている。
  • その他、ジフテリア、ブルセラ症、レジオネラ、トキソプラスマ、腸チフス、サルモネラ、ポリオ、マイコプラスマでも間質性腎炎の報告が見られる。

 

中毒性尿細管間質性腎炎

  • 重金属の曝露により尿細管障害と間質の線維化による腎障害を生じることがある。カドミウム(Cd)、鉛(Pb)、リチウム(Li)、水銀(Hg)、ウラン(U)、ゲルマニウム(Ge)、砒素(As)が原因となりうる。

カドミウム(Cd)中毒

  • Cd中毒はイタイイタイ病が有名であるが、生活環境の整備でほとんどみられなくなった。Cd曝露はCd化合物の粉塵吸入によるものがほとんどとなった。
  • イタイイタイ病はCd長期曝露による中毒で、近位尿細管機能異常と骨軟化症が特徴である。汚染地域で生産された米や野菜を摂取したり、カドミウムに汚染水を飲用するなどによっておこる。初期は近位尿細管機能障害により多尿・頻尿・口渇・多飲・便秘が現れる。進行するとリン酸、重炭酸再吸収低下による骨軟化症を生じる。筋力低下、歩行時の下肢骨痛、呼吸時の肋骨痛、上肢・背部・腰部などに運動痛が出現する。最終的には骨の強度が極度に弱くなりわずかな刺激で骨折する。寝たきり状態が多かった。
  • Cd中毒の診断はFanconi症候群など近位尿細管障害を認めCd曝露歴が疑われれば尿中Cd濃度を測定する。尿[Cd]>50μg/l以上あれば診断は確定的である。

鉛(Pb)中毒

  • Pb中毒は、生活環境の変化で急性中毒や重症中毒はみられなくなった。明治時代まで使用されていたおしろいに含まれており、母の乳首についたおしろいを乳児が経口摂取し、中毒が頻発したといわれている。
  • Pb腎症は小児の急性中毒で認められる2次性Fanconi症候群と、成人での糸球体血流量/濾過量低下による血清Cr濃度上昇、高血圧、高尿酸血症、痛風発作である。この成人のタイプには蛋白尿はわずかであることが多い。しかし最近では職業による低濃度曝露での軽微な腎障害が起こることがある。
  • 検査所見は尿アルブミン排泄増加、尿中β2MG、NAGなどの低分子蛋白増加、軽度のGFR低下(血清Cr濃度上昇は少ない)が特徴である。Pbを扱う業者で10%に生じているという報告もある。治療は曝露をやめることが可能ならば、それだけで回復することも多い。

リチウム(Li)中毒

  • Liは精神科でしばしば投与される薬剤であり中毒の原因となる。
  • 血中濃度が10.3μg/mlを超えると中毒症状が出現し24.2~27.6μg/mlでは死亡することもある。
  • 症状は軽症では多尿、消火器症状(食欲不振、下痢、嘔吐)、精神神経症状(無気力、記銘力低下、振戦、筋強剛)であるが、進行すると運動失調、痙攣、精神錯乱、意識障害、昏睡になる。
  • また長期間Li製剤投与を受けている患者の中には血中濃度が中毒以下でも抗利尿ホルモン反応低下、尿濃縮力低下、多尿など腎性尿崩症様の病態をとることがある。投与患者の約10%には糸球体硬化、間質線維化を認める場合もある。

電解質異常による尿細管間質性腎炎

  • 尿酸、シュウ酸、シスチンの沈着による腎障害が多い。

高尿酸血症

  • 高尿酸血症に伴う腎障害には尿酸結石による閉塞性腎障害、尿酸塩腎障害、尿酸性腎障害の3種類がある。
  • 尿酸結石による腎障害は血中尿酸濃度>13mg/dl、尿中尿酸濃度>1100mg/日で生じる。痛風性関節炎の合併が40%と多い。治療はCKDでの高尿酸血症の治療に準ずる。
  • 尿酸性障害は白血病やリンパ腫の治療の際に尿酸産生が急速に増加し、尿酸結晶が尿細管に沈着し急性腎不全をきたす疾患である。脱水やアシドーシス時に起こりやすい。治療は補液と利尿薬投与により尿量を確保すること、重曹やアセタゾラミド投与により尿をアルカリ化すること、アロプリノールを投与し腎への尿酸負荷を軽減することである。
  • 尿酸塩障害はまれな病態で重症痛風に合併して尿酸結晶が腎髄質に沈着して腎機能を低下させる。蛋白尿、高血圧をしばしば合併する。

高シュウ酸血症

  • 高シュウ酸血症は先天性の代謝障害によるものと慢性腎不全患者に続発する2次性のもの、アスコルビン酸(ビタミンC)の過剰摂取によるものなどがある。
  • いずれも腎障害の原因はすべてシュウ酸結晶による尿細管閉塞である。
  • 慢性腎不全患者ではシュウ酸の蓄積が起こりやすく内臓、血管、骨、関節にシュウ酸Ca沈着が認められ、特にビタミンC投与患者で顕著である。したがってCKD患者にはビタミンC は投与しない。
  • 炎症性腸疾患の患者ではシュウ酸の腸での吸収が増えるため、腎障害の出現に注意する。
  • 特に効果的な治療は現時点ではない。飲水増加による尿量増加はシュウ酸結石の形成を抑制する。大量のピリドキシン(100mg/日)の投与は尿中シュウ酸排泄を減少させるが、長期的効果は少ない。

シスチン尿症

  • シスチン尿症は常染色体劣性遺伝で7000人に1人の割合で発生する。結石は20~30代で見られ尿路閉塞による腹痛、背部痛、尿路感染を認める。慢性腎不全になることもある。

放射性腎炎

  • 腎臓は放射線への感受性が高い。悪性腫瘍の放射線治療に伴い腎臓の炎症および変性が起こり放射性腎炎と呼ばれる。通常成人では腎の50%以上に5週間で20~30Gyの直接照射が加わったときに発症するが個体差もある。

急性放射性腎炎

  • 急性放射性腎炎は23Gy以上の高用量放射線曝露を受けた後6~12ヶ月後に発症する。高血圧を認めしばしば悪性高血圧となる。心不全、浮腫、頭痛、蛋白尿、尿円柱、エリスロポエチン欠乏による貧血を合併する。一部は蛋白尿が慢性化し高窒素血症が進展し腎不全に至る。軽度の蛋白尿か高血圧のみの場合もある。

慢性放射性腎炎

  • 慢性放射性腎炎は急性放射性腎炎が遷延して起こるか10年以上経過して遷延して起こる。倦怠感、腎濃縮力低下による夜間尿、低張尿、高尿酸尿、尿中Na喪失が起こり、高窒素血症を認め腎機能が低下する。悪性高血圧となることもある。放射性尿管炎、後腹膜線維症などを合併すると腎機能増悪の原因となる。
  • 放射性腎炎は多くが不可逆性かつ有効な治療が存在しないため予防が大事である。同時に行われることの多い抗癌剤による腎障害も悪影響を及ぼす。照射量を20Gy以下に抑える、腎の1/3は照射野の外に置くなどの工夫をなるべく行う。

自己免疫疾患に合併する間質性腎障害

Sjogren症候群

  • Sjogren症候群には間質性腎炎を高率に合併する。腎生検を行うと頻度は約50%といわれる。
  • 臨床的には遠位尿細管性アシドーシスをしばしば合併するが、自覚症状は乏しいことが多い。糸球体腎炎は非常に稀であるので、Sjogren症候群に糸球体腎炎を合併した場合は他の原因を考える。
  • ステロイド治療への反応は悪く通常は行わない。しかし腎不全になることも少ないため、アシドーシス、低K血症の補正を行う。

強皮症

  • 強皮症に合併して起こる腎障害は悪性高血圧に類似した強皮症腎クリーゼが有名である。
  • 高血圧と腎障害、微小血管性溶血性貧血が特徴的な所見である。
  • この病型には典型的な悪性高血圧の経過を辿るものの他に、ゆっくりとした血小板減少が先行するタイプがある。これはTTPであり、腎障害を生じる前に血漿交換にて改善する。
  • また強皮症にはANCA関連血管炎の合併もあり腎障害の原因となりうる。

全身性エリテマトーデス

  • SLEのループス腎炎は糸球体腎炎がほとんどであり尿細管間質性腎炎のみの症例は少ない。
  • もしも糸球体病変がなく間質性病変のみの場合は薬剤の影響またはSjogren症候群の合併を検討する。
  • しかし糸球体病変を認めた上での尿細管、間質病変は多く、ループス腎炎の66%で間質への細胞浸潤、53%に毛細血管や尿細管基底膜への免疫グロブリン/補体の沈着を認める。

ANCA関連血管炎

  • ANCA関連腎症は半月板形成性糸球体腎炎であるが、糸球体病変を欠く尿細管間質性腎炎となることがある。これは半月体形成性腎炎の初期病変の一つを見ている可能性がある。
  • またシメチジン、インドメサシン、セフォタキシムで間質性腎炎にANCA陽性を伴っていたという報告もあるので念頭に置く。

サルコイドーシスなどの肉芽腫性疾患

  • サルコイドーシスではリンパ球性間質性腎炎を生じるが、肉芽腫形成がされることはしばしばある。しかし、他の肉芽腫性疾患を鑑別しなければならない。
  • 40例の腎に肉芽腫を認めた症例の内訳はサルコイドーシス20例、薬剤7例、結核5例、Wegener肉芽腫症2例、ハンセン病1例、MAC1例、クローン病1例であった。(Medicine (Baltimore). 2007;86:170)

特発性尿細管間質性腎炎

  • 腎生検症例の0.5%程度、基礎疾患の明らかでない尿細管間質性腎炎が発見される尿細管基底膜(tubular basement membrane:TBM)に沿って線状にIgG、C3の沈着を認めるもの、顆粒状に沈着を認めるもの、認めないものがあるが、抗TBM抗体を認めるものを抗TBM病と呼ぶ。
  • 急性間質性腎炎にブドウ膜炎を伴い、悪性リンパ腫、結核、サルコイドーシス、肉芽腫性肝炎、ヒストプラズマ感染症、伝染性単核球症、ブルセラ感染症、シェーグレン症候群、ベーチェット病、若年性関節リウマチ、ウェゲナー肉芽腫症などの全身疾患が否定された場合に、TINU症候群(Tubulointerstitial nephritis and uveitis syndrome)と診断される。
  • ステロイドの反応は良好。ステロイドを使用しなくても自然寛解する例もある。