急速進行性糸球体腎炎(Rapid progressive glomeluronephritis:RPGN)

  • 急速進行性糸球体腎炎(Rapid Progressive Glomeluronephritis:RPGN)とはWHOにより、『急性あるいは潜在性に発症する肉眼的血尿、蛋白尿、貧血、急速に進行する腎不全症候群』と定義されている。
  • 臨床的にはANCA陽性で血尿、蛋白尿などの腎炎様尿所見を持ち、病理学的には壊死性半月体形成性糸球体腎炎(Necrotizing crescentic glomerulonephritis:NCGN)を示すものが典型像である。

RPGNの原因疾患

  • 平成18年度までに厚労省研究班で登録された1772例のRPGN(日腎会誌2011;53:509)では腎限局型のNCGNが920例(51.9%)。内訳は微量免疫(Pauci-immune)型745例(42.0%)、抗基底膜抗体(GBM抗体)型81例(4.6%)、免疫複合体型35例(2.0%)、混合型31例(1.7%)、分類不能28例(1.6%)であった。
  • NCGN以外にもRPGNの臨床経過をとる半月体形成を伴う糸球体腎炎にはIgA腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、非IgA型メサンギウム増殖性腎炎、膜性腎症も報告されている。
  • 全身性疾患に伴うRPGNではPauci-immune型NCGNを伴う顕微鏡的多発血管炎(Microscopic polyangitis:MPA)が最多で344例(19.4%)ループス腎炎66例(3.7%)、多発血管炎性肉芽腫症(Granulomatosis with polyangiitis:GPA、旧Wegener肉芽腫症)46例(2.6%)、紫斑病性腎炎36例(2.0%)、抗GBM抗体型NCGNを伴うGoodpasture症候群27例(1.5%)、関節リウマチ24例(1.4%)、クリオグロブリン血症12例(0.7%)であった。
  • 自己免疫疾患以外に合併したRPGNも薬剤性10例(0.6%)、感染性心内膜炎/シャント腎炎6例(0.3%)、悪性腫瘍3例(0.2%)、C型肝炎ウイルス2例(0.2%)が報告されており少数ながら治療方針が全く変わるためRPGNの鑑別診断を行う上では記憶に留めるべきである。

RPGNの臨床症状と検査所見

  • RPGNの初発症状は全身倦怠感(44%)、発熱(42.6%)、食思不振(32.1%)、上気道炎症状(26.1%)など非特異的な自覚症状が多い。
  • 患者の23.1%では健診での血尿、蛋白尿で見つかっている。
  • 初診時の血清Cr値は平均4.45mg/dl、上昇速度は平均0.5mg/dl/週、しかし発症早期では血清Cr値の上昇速度は遅いため、腎炎様の尿所見とわずかな血清Cr値上昇を認めたときにはRPGNも鑑別診断に入れる必要がある。
  • より早期発見を目指して、注意を喚起する目的で”急速進行性腎炎症候群早期発見のためのの診断指針”が「急速進行性腎炎症候群の診療指針 第2版」で盛り込まれた。
  • 腎外症状では胸部X線異常(23.1%)、関節炎/関節痛(16.8%)、間質性肺炎(14.6%)、肺胞出血(11.2%)、紫斑(9.1%)、下血/便潜血(8.1%)、末梢神経障害(6.9%)、中枢神経障害(5.5%)、心疾患(5.3%)などを認めることがある。これらの所見を認めたら全身性疾患に伴うRPGNを疑う。赤沈亢進、CRP上昇もほとんどの症例に認められる。(日腎会誌2002;44:55)

急速進行性腎炎症候群早期発見のための診断指針

  1. 尿所見異常(主として血尿や蛋白尿,円柱尿)・・・注1)
  2. eGFR<60 mL/min/1.73 m2・・・注2)
  3. CRP 高値や赤沈促進
  • 上記の 1~3)を認める場合,「RPGN の疑い」として,腎専門病院への受診を勧める。
  • ただし,腎臓超音波検査を実施可能な施設では,腎皮質の萎縮がないことを確認する。
  • なお,急性感染症の合併,慢性腎炎に伴う緩徐な腎機能障害が疑われる場合には,1~2 週間以内に血清クレアチニンを再検し,eGFR を再計算する

注1) 近年,健診などによる無症候性検尿異常を契機に発見される症例が増加している。最近出現した検尿異常については,腎機能が正常であっても RPGN の可能性を念頭に置く必要がある。

注2) eGFR の計算は,わが国の eGFR 式である下式を用いる。eGFR(mL/min/1.73 m2)=194×Cre-1.094×Age-0.287(女性はこれに×0.739)ただし,血清クレアチニンの測定は酵素法で行うこと。

RPGNと抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody:ANCA)

  • Pauci-immune型/MPA/GPAの多くはANCAが陽性でありANCA関連血管炎と呼ばれる。
  • Pauci-immune型/MPAではMPO-ANCA陽性約90%、PR3-ANCA陽性は数%である。一部は双方とも陽性になる。また5~10%でANCA陰性とされるが測定感度の問題かもしれない。
  • GPAでは70~80%にPR3-ANCA、約10%にMPO-ANCAを認める。
  • 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(Eosinophilic granulomatosis with polyangiitis:EGPA、旧アレルギー性肉芽腫性血管炎/Churg-Strauss症候群)は約50%の症例でMPO-ANCA陽性になりANCA関連血管炎に分類されるが、一般に腎病変は軽微でRPGNとなることは極めて少ない

腎生検

  • 腎生検で特徴とされる半月体は糸球体上皮細胞の増殖を意味するが、NCGNのみに見られる所見ではない。巣状分節性糸球体硬化症、糖尿病などでもみられる。
  • NCGNでは種々の病期の半月体を持つこと、また糸球体係蹄壊死、ボウマン嚢破綻、糸球体周囲の炎症細胞浸潤、傍尿細管毛細血管炎などを伴うことと併せて病理判断する。
  • 蛍光抗体法ではPauci-immune型は補体、免疫グロブリン沈着がほとんど見られない。抗GBM型はIgG、C3が糸球体係蹄壁に線状に沈着が見られる。免疫複合体型は糸球体係蹄壁やメサンギウム領域に顆粒状の沈着が見られる。

治療

1、MPO-ANCA型RPGN

  • MPO-ANCA型RPGNは臨床所見を以下の1-4の項目でスコアリングをおこなう。
  1. 血清Cr値(0:<3.0mg/dl、1:3.0mg/dl<かつ≦6.0mg/dl、2:>6.0mg/dl、3:透析療法)
  2. 年齢(0:<60、1:60~69、2:≧70)
  3. 肺病変(0:なし、2:あり)
  4. CRP(0:<2.6mg/dl、1:2.6~10mg/dl、2:>10mg/dl、)
  • 各スコアの和を求め総スコアでgrade分類して臨床的重症度を評価する。
  • 0~2(GradeⅠ)、3~5(GradeⅡ)、6~7(GradeⅢ)、8~9(GradeⅣ)。
  • GradeⅠorⅡで高齢者または透析患者の場合は初期治療を経口PSL0.6~0.8mg/kg/日のみとする。
  • GradeⅠまたはⅡで高齢/透析患者でない場合、またはGradeⅢorⅣで高齢者または透析患者の場合はmPSLパルス療法(mPSL 500~1000mg/日×3日間)→経口PSL0.6~0.8mg/kg/日。この初期治療でコントロール不良の場合はmPSLパルス療法またはcyclophosphamide(CY)25~100mg(IVCYなら500~1000mg/月)を追加する。
  • GradeⅢorⅣかつ高齢者/透析患者でない場合はmPSLパルス療法(mPSL 500~1000mg/日×3日間)→経口PSL0.6~0.8mg/kg/日+CY25~100mg(またはIVCY)とする。以上いずれの場合も4~8週以内にPSL<20mg/日に減量する。

 

2、PR3-ANCA型RPGN

  • PR3-ANCA型RPGNの場合はより重症例が多いことから次のプロトコールがある。
  • 高齢者or透析患者で初期治療:mPSLパルス療法(mPSL 500~1000mg/日×3日間)→経口PSL0.6~0.8mg/kg/日。この初期治療でコントロール不良の場合はmPSLパルス療法またはCY25~100mg(IVCYも可)を追加。
  • 高齢者/透析患者以外ではmPSLパルス療法(mPSL 500~1000mg/日×3日間)→経口PSL0.6~0.8mg/kg/日+CY25~100mg(IVCYも可)とする。MPO-ANCA型と同じく4~8週以内にPSL<20mg/日に減量する。
  • これら以外の治療薬として候補に挙がるのは以下の薬剤である。
  1. Methotrexate(CYと同様の寛解導入率だが再発率はより高い:Arthritis Rheum2005;52:2461)、
  2. MMF(CY抵抗性の場合の代替薬、維持療法での再発減少効果:Nephron Clin Prac2006;102:c100)、
  3. Mizoribine(寛解後の再発予防効果:Am J Kid Dis2004;44:57)、
  4. 大量γグロブリン療法(重症かつ治療抵抗例の寛解導入:QJM2000;93:433)、
  5. 抗TNF-α抗体(寛解導入:J Am Soc Nephrol2004;15:717、NEJM2005;352:351)

3、抗GBM型RPGN

  • 抗GBM抗体型では抗GBM抗体の除去および抗体産生抑制が治療の中心である。
  • 高度の腎障害が進行している症例では治療を行っても腎予後はきわめて不良であるため積極的な免疫抑制療法を行わないことがある。
  • 血清Cr値>6.0mg/dlまたは半月体形成率>50%の場合肺胞出血を伴わなければ安静、生活制限、食事療法などの一般療法や対症療法のみとする。
  • 肺胞出血を伴う場合、また血清Cr値<6.0mg/dlかつ半月体形成率<50%の場合はまず血漿交換療法を行い、同時にmPSLパルス療法(mPSL 500~1000mg/日×3日間)→経口PSL0.6~0.8mg/kg/日+CY25~100mgを行う。

4、免疫複合体型RPGN

  • 1次性の免疫複合体型RPGNは症例が少なく確立したプロトコールは無いがMPO-ANCA型やPR3-ANCA型とほぼ同じ治療方針が取られ治療効果や予後も同等である。
  • 2次性の免疫複合型RPGNはループス腎炎、紫斑病性腎炎、クリオグロブリン血症が含まれる。