現時点で、関節リウマチ(RA)を確実に診断できる”診断基準”はなく、この基準を満たす患者を関節リウマチとみなそうという”分類基準”があるだけである。患者を確実に拾い上げようとすれば(感度を高めれば)他疾患が混入しやすくなり、他疾患の混入を防ぐために特異度を高めれば、真の患者を診断できなくなる。診断基準の場合は”診断基準≒疾患の定義”と考えてよいが、分類基準の場合は、これほど厳密ではなく、基準を満たすことは”暫定的に対象疾患であるとみなしてよい”ことを意味する。
現在、RA診断で最も使われるのはアメリカリウマチ学会とヨーロッパリウマチ学会が共同で作成し2010年に発表された分類基準(2010ACR/EULAR基準)である。新薬が導入されたことにより早期診断、早期治療の重要性が増したことが作成された背景にある。日本リウマチ学会はこの基準を検証し(参考:日本リウマチ学会”ACR/EULAR新分類基準の検証結果について”)、この基準を用いてRA診断を行うことは妥当としながらも、最初に求められる鑑別診断が重要であるとして”鑑別疾患難易度別リスト”、”問診票”を作成し鑑別診断の補助として使用することを推奨している。
また、1987アメリカリウマチ学会分類基準は、除外診断を必要とせず、関節炎診療に習熟していなくても使いやすい基準であり参考になる。
分類基準を適用する前に以下の3つが前提になっていることに注意する。
A-D合計が6点以上(10点満点)でRA確実例と診断する。
※1)DIP関節、母指CM関節、母趾MTP関節は除外
※2)大関節:肩、肘、股、膝、足関節
※3)小関節:中手指節関節(MCP)、近位指節間関節(PIP)、第2-5中足趾節関節(MTP)、母指IP関節
※4)11関節以上に含まれる関節は大関節、小関節のほかに顎関節、胸鎖関節、肩鎖関節なども含む
※5)陰性とは基準範囲内。低値陽性とは正常上限値の3倍以下。高値陽性とは正常上限値3倍超。定性のみの場合は低値陽性と判断
※6)罹病期間とは患者申告による疼痛、腫張、圧痛の持続期間
この鑑別診断表は疾患頻度とスコアが偽陽性になりやすさから3段階に分かれている。
鑑別 難易度 |
注意点 | |
高 | 頻度もスコアも疑陽性になりやすい | RA典型例と類似し必ず除外すべき疾患 |
1、ウイルス性関節炎(パルボウイルスB19、風疹ウイルスなど) 2、全身性結合組織病(Sjogren症候群、SLE、MCTD、DM/PM、強皮症) 3、リウマチ性多発筋痛症 4、乾癬性関節炎 |
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中 | 頻度は高いがスコアは疑陽性になりにくい | 典型的でないRAの診断には鑑別対象となる疾患 |
1、変形性関節症 2、関節周囲の疾患(腱鞘炎、腱付着部炎、肩関節周囲炎、滑液包炎) 3、結晶誘発性関節炎(痛風、偽痛風) 4、血清反応陰性脊椎関節炎(反応性関節炎、掌蹠膿疱症性骨関節炎、強直性脊椎炎、炎症性腸疾患関連関節炎) 5、全身性結合組織病(ベーチェット病、血管炎症候群、成人スチル病、結節性紅斑) 6、その他のリウマチ性疾患(回帰リウマチ、サルコイドーシス、RS3PE) 7、その他の疾患(更年期障害、線維筋痛症) |
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低 | 頻度が低く、スコアも疑陽性になることも少ない | 治療方針が異なり、見逃した時には予後に影響するため一応念頭に置く必要がある。 |
1、感染に伴う関節炎(細菌性関節炎、結核性関節炎など) 2、全身性結合組織病(リウマチ熱、再発性多発軟骨炎など) 3、悪性腫瘍(腫瘍随伴症候群) 4、その他の疾患(アミロイドーシス、感染性心内膜炎、複合性局所疼痛症候群など) |
【鑑別難易度高】
1、ウイルス感染に伴う関節炎
2、全身性結合組織病に伴う関節炎
3、リウマチ性多発筋痛症(Polymyalgia rheumatica:PMR)
4、乾癬性関節炎
【鑑別難易度中】
1、変形性関節症
2、関節周囲の疾患(腱鞘炎、腱付着部炎、肩関節周囲炎、滑液包炎など)
3、結晶誘発性関節炎(痛風、偽痛風)
4、血清反応陰性脊椎関節症(SNSA)
5、全身性結合組織病(ベーチェット病、血管炎症候群、成人スチル病、結節性紅斑)
6、その他のリウマチ性疾患
7、その他の疾患(更年期障害、線維筋痛症)
【鑑別難易度低】
1、感染に伴う関節炎(細菌性関節炎、結核性関節炎)
2、全身性結合組織病(リウマチ熱、再発性多発軟骨炎)
3、悪性腫瘍(腫瘍随伴症候群)
4、その他の疾患(アミロイドーシス、感染性心内膜炎、複合性局所疼痛症候群)
日本リウマチ学会からRA診断のための問診票が出されているが、この問診票の見方について、私見ながら解釈してみる
【現病歴】 備考 | |
関節症状発症 年 月 日 |
RAは慢性発症であり、発症日の特定は通常できない。日の単位の急性発症は関節リウマチらしくない。急性の多発関節炎はウイルス性関節炎、PMR(高齢者の場合)を鑑別する。 |
口腔乾燥、眼乾燥 |
Sjogren症候群を想定した内容だが、高齢者、線維筋痛症でも認められる。 |
日光過敏症 |
紫外線の暴露により皮膚が単に赤くなるだけでなく、湿疹、水疱、発熱など強い反応を意味する。SLEの可能性を考える。薬剤(レボフロキサシン、モーラステープ、ジクロフェナク、イソニアジド、スルファサラゾピリジン、フロセミド、ピレチア、ホリゾンなど)でも生じうる。 |
朝のこわばりを伴った腰痛 |
安静時に疼痛が増強、運動で改善する腰痛で炎症性腰痛といわれる。通常の整形外科的な腰痛ではみられない。仙腸関節炎、脊椎炎で認められる。 |
乾癬 |
乾癬性関節炎の診断(CASPER分類基準のスコア2点)で最も重要な項目。乾癬はHIV感染で合併しやすい自己免疫疾患でもある。 |
【既往歴】 | |
乾癬 | 活動性乾癬がなくても既往歴があれば乾癬性関節炎のCASPER分類基準スコア1点 |
胸膜炎、肋膜炎 | 慢性胸膜炎はRA、SLE、結核などでみられる。 |
結核 | 標準治療を完遂されていない場合には、活動性結核発症の可能性は常にあると考える。 |
悪性腫瘍 | 悪性腫瘍の既往があれば、Carcinomatous polyarthritisの可能性を考慮する。 |
薬物アレルギー | 薬剤アレルギーの既往は薬剤アレルギー発症のリスク因子である。HIVなどの免疫不全では薬剤アレルギーの頻度が高い。薬剤誘発性ループスは特定の薬剤で生じるが関節炎も頻度の高い徴候である。 |
喫煙歴 | 喫煙者は抗CCP抗体保有率が高くRAのリスクになるといわれる。 |
飲酒歴 | 大量摂取歴がある場合は、大腿骨頭壊死、痛風を鑑別する。 |
【家族歴】 | |
関節リウマチ | RA患者の一卵性双生児の発症率は15%、二卵性双生児では5%とされる。RA患者の家族歴でRA、SLEやシェーグレン症候群などの膠原病、橋本病などの自己免疫性甲状腺疾患を見ることは多い。 |
膠原病 | |
乾癬 | 乾癬の家族歴は乾癬性関節炎のCASPER分類基準スコア1点 |
リンゴ病 | 臨床症状がRAと最もよく似るウイルス性疾患はパルボウイルスB19(HPVB19)感染症である。幼少の同居家族のリンゴ病罹患歴は重要なヒントになる。家族の生活圏内でリンゴ病の流行があったかも併せて聴取する。 |
結核 | 家族に活動性結核の既往がある場合は、結核菌曝露しているものと考えて活動性結核の検索が必要である。 |
【診察】 | |
口腔内所見 | SLEやBehcet病では口内炎をしばしばみる。特に誘因のない患者にカンジダ口内炎をみたらHIV感染を考慮する。 |
聴診 | 背下部のfine crackleは間質性肺炎,胸膜摩擦音や心膜摩擦音は胸膜炎、心膜炎を示唆する。いずれもRAや膠原病を示唆する所見である。弁膜症が疑われる心雑音を聴取したら細菌性心内膜炎の可能性を考える。血液培養は必須である。 |
皮膚所見 | 皮下結節は物理的な刺激を受けやすい箇所に好発する。紫斑や皮膚潰瘍をみたら血管炎の合併を疑う。壊疽性膿皮症をみることもある。 |
【検査】 | |
血算 分画 | 慢性炎症による貧血(小球性~正球性)、血小板減少の頻度が高い。汎血球減少はSjS、SLEの合併やFelty症候群を疑う。 |
尿定性 | 蛋白尿のみを認める場合は腎アミロイドーシスの合併や、SLEを疑う。蛋白尿と血尿の双方を見る場合はSLE、血管炎による腎炎を鑑別する。 |
CRP/ESR | 慢性炎症を反映してCRP/ESRは両方とも上昇する。但し、関節症状が手指や足趾の小関節に留まる場合はわずかな変化しかみられないこともある。 |
AST/ALT | RAで上昇することは少ない。著明なAST/ALT上昇をみたら、ウイルス性肝炎や自己免疫性肝炎、血管炎などRA以外の原因を疑う。 AST>ALTの上昇をみる場合はCK上昇の有無を確認する。 |
CK | 持続するCK上昇は筋炎を疑う。 |
RF/抗CCP抗体 | RFも抗CCP抗体も初期には約70%の陽性率。特異度はRFで約70%、抗CCP抗体で約90% |
抗核抗体 | 抗核抗体陰性の場合、SLE、強皮症、MCTDは否定的である。 |
手、足Xp | 手指の関節周囲の脱灰(骨粗鬆症)、骨びらんを認めればRAの診断は確定する。足趾は関節炎症状が乏しくても骨びらんを認めることがあるので、無症状でも必ず足趾Xpを撮影する。 |
胸部Xp(正側面) | 胸水や間質性肺炎のスクリーニングで必要。 |
この基準は2010ACR/EULAR基準が出るまで約20年以上使われた基準である。90%と十分な特異度があり、除外項目が無いことから使いやすく、現在でも参考になる。
左記の7項目中、少なくとも4項目が該当する場合にRAとする。
①~④の項目は少なくとも6週間以上持続が必要。
※1)朝のこわばりを問診すると”1日中こわばっている”といわれることがある。この場合の持続時間はある程度改善が見られるまでの時間であり、通常は昼までには改善がみられる。
※2)対象となる領域は左右のPIP、MCP、手関節、肘関越、膝関節、足関節、MTP
※3)PIP、MCP、MTPでは完全な対称でなくても左右の同じ領域で罹患していればよい。
関節炎は認めるが確定診断に至らない関節炎を診断未確定関節炎(Undifferentiated arthritis:UA)と呼ぶ。この中の1/3は1~2年のうちにRAとなるが、RAに移行するUAを見つける指標として出された基準が”関節リウマチ早期診断予測基準”である。
MRIではRAの早期病変である滑膜炎や骨髄浮腫、骨びらんを鋭敏に検出することが出来る。この早期病変と自己抗体を用いたシンプルなものであるが、研究班の検討では感度83%、特異度85%とされている。
また、RF、抗CCP抗体陽性例や骨髄浮腫を認める症例は関節破壊の進行が予測されることから、積極的に早期から治療を行う必要があると考えられ、”早期治療開始基準”も同時に発表された。骨髄浮腫とMMP-3が相関するため、MRIが施行できないときはMMP-3で代用可能とされている。
1)滑膜炎:造影前後のT1強調像で評価する。滑膜が正常より肥厚し増強効果あり
2)骨髄浮腫:骨髄内の境界不明瞭な異常信号。T1強調像で低信号、脂肪抑制T2強調像/STIR像で高信号。造影効果あり。
3)骨侵食:骨皮質の欠損を伴う限局性の異常信号。T1強調像で低信号。増強効果あり。
2010ACR/EULAR基準ではより早期の診断に主眼が置かれている。1987ACR基準と比べて早期リウマチ患者での感度は上昇したが、”他に関節炎を説明する適切な疾患がないこと”という広範な除外診断を求められるため、関節炎診療に慣れている医師でないと使いづらい。1987ACR基準には除外診断を必要とせず、特異度は高いため使いやすい基準であるが、この基準を満たさないRA患者もいることは認識する必要がある。
2010ACR/EULAR基準ではRAに典型的な骨びらん(例:右図)があればRAと診断してよいとしている。この場合は分類基準のスコアとは関係なく診断可能である。
関節所見では滑膜炎の有無を見ることになるが、1987ACR基準では滑膜炎は関節腫張として捕らえることにしている。対して2010ACR/EULAR基準では”少なくとも1関節の腫張”としながらも、その他の関節については”腫張または圧痛”と圧痛のみでも滑膜炎ありと判断する。また”画像診断で滑膜炎を確認してもよい”と画像診断による代用も可能であり、より広く滑膜炎をとらえている。
評価対象となる関節は1987ACR基準では”左右のPIP、MCP、手関節、肘関節、膝関節、足関節、MTP関節”であるが、2010ACR/EULAR基準ではまずDIP関節、母指CMC関節、母趾MTP関節は評価の対象外とした上で、小関節を"MCP、PIP、2-5MTP、母指IP関節、手関節”、大関節を”肩、肘、股、膝、足関節”として肩関節や股関節も評価対象に加えている。さらに”11個以上の関節”を評価する場合は、”顎関節、肩鎖関節、胸鎖関節など”の関節も含むとなっており、評価対象関節が2010ACR/EULAR基準では増えることにも注意が必要である。
関節症状持続期間は1987ACR基準では自然軽快するウイルス関節炎などの除外のために"6週間持続”が必須であったが、2010ACR/EULAR基準では必須要件ではなく、より早期診断が可能である。
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2010ACR/EULAR基準 | 1987ACR基準 |
RAのX線所見 |
典型的な骨びらんのみで RAと判断してよい |
関節びらんまたは明瞭な脱石灰化を有意な所見とする 基準7項目の中の1つ |
関節所見 |
少なくとも1関節の腫張 他は圧痛のみでよい 画像による滑膜炎所見 |
関節腫張 |
除外診断 |
必須 |
なし |
関節症状期間 |
6週間以上で1点 |
6週間以上が必須 |